ヨーロッパ新世紀 : 象のロケット≪映画DVD総合ナビゲーター≫

ヨーロッパ新世紀

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原題：R.M.N.

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10月14日より全国公開中

(C)Mobra Films-Why Not Productions-FilmGate Films-Film I Vest-France 3 Cinema 2022
配給：活弁シネマ倶楽部／インターフィルム

2022年製作ルーマニア・仏・ベルギー　（127 min）

監督：クリスティアン・ムンジウ　エリザのために　 4ヶ月、3週と2日　汚れなき祈り
出演者：
マリン・グリゴーレ
エディット・スターテ
マクリーナ・バルラデアヌ

オルソルヤ・モルドヴァン、アンドレイ・フィンティ、マーク・ブレニッシ、オビテュ・クリサン

あらすじ：ルーマニア、トランシルヴァニア地方の村に、出稼ぎ先のドイツで暴力沙汰を起こした男マティアスが戻ってきた。　長らく疎遠だった妻、口がきけなくなった息子、衰弱した父との接し方に戸惑う彼は、元恋人シーラと関係を持つように。　そんな時、シーラが責任者を務める地元のパン工場が外国人労働者を雇い入れたことで村人たちの不満が爆発し、激しい対立へと発展してゆく…。　社会派ドラマ。

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ルーマニア人、ハンガリー人、ドイツ人、ロマの人々が暮らす多民族のこの村は、ヨーロッパの縮図のようなもの。　差別する者とされる者は紙一重。　宗教・民族・国籍など様々な違いが差別、対立、争い、ひいては殺し合いにも発展しかねない、現代人の危機的状況が描かれてます。

＜スタッフ厳選超お薦め映画作品！＞
★★★★

宗教、政治的価値観、人種、国籍、性別、体格、貧富、性的嗜好…等、様々な違いに対する差別への社会的批判が激しくなり、建前的には違いへの認識と容認が顕著になったのは、つい最近のこと。日本人は特に、人種や宗教への関心が低いと言われる。誰しも無意識に差別したり、されたりしており、何気ない一言が大きなトラブルに発展する場合もある。

本作の舞台は、東ヨーロッパのルーマニア、トランシルヴァニア地方の小さな多民族の村。　住民はルーマニア人、ハンガリー人、ドイツ人、ロマ（かつての呼称はジプシー）の人々で、彼らが話す言語もハンガリー語、ルーマニア語、ドイツ語、英語、フランス語など様々。本編では字幕の色をそれぞれの言語で変えており、私には言語の違いまでは理解できなかったが、それが小さな軋轢の象徴であることは感じ取れた。彼らはそれでも一応、同じ村の住民として平穏に暮らしていたのだ。

基幹産業だった鉱山が閉鎖されてから、各家庭の大黒柱は高収入を求めて西ヨーロッパの先進国へ出稼ぎに行くようになり、賃金の低い地元企業の求人には見向きもしない。地元のパン工場は、人手不足の打開策として外国人（ここではスリランカ人）労働者を受け入れざるを得なくなった。出稼ぎ先の先進国では自分たちも多かれ少なかれ差別を受けてきたのに、そして村の中でさえ民族間の争いを経験してきたというのに、村人は一丸となって肌の色が黒いスリランカ人への排斥運動を行う。一連の出来事をじっと見ている幼い少年は、将来どんな大人になるだろうか。

差別するなという教育をどれだけ受けても、ちょっとしたことから差別はいくらでも生み出される。異なる人々が共存するには、互いにどこかで妥協しなくてはならない。この村はヨーロッパの縮図であり、外に敵を作り攻撃することで内輪揉めが収まるという戦争の政治的利益と、そこから生じる悲劇をそのまま映し出している。世界では民族紛争やテロだけでなく大きな戦争も現実に起こっているし、その戦争がもたらす利益と不利益は、遠い日本にまで影響を及ぼしている。多民族の小さな村からタイトル通り新世紀のヨーロッパ、そして世界の争いの火種が見えてくる不気味な社会派サスペンス。お薦め作品だ。

（象のロケット映画・ビデオ部　並木）

＜作品評価システム＞と＜高度マッチングシステム＞