登場人物の名前から想起されるのは、イギリスの劇作家ウィリアム・シェイクスピア(1564〜1616年)が書いた四大悲劇の一つ「ハムレット」。その主人公はデンマークの王子ハムレットで、彼が父の敵である叔父クローディアスに復讐を企てる物語である。 「To be or not to be, that is the question.」というハムレットのセリフは、「生きるべきか、死ぬべきか」の他にも、様々な解釈ができるセリフとして有名。 本作のストーリーはハムレットとは異なるが、相通ずるものがあるからこその設定であろう。
さて、主人公は若き王女スカーレット(声:芦田愛菜)。父王アムレット(声:市村正親)は彼女の目の前で処刑されてしまう。 その時、父は娘に何かを伝えようと言葉を発したが、群衆のどよめきにかき消され彼女には聞こえなかった。 父の妃である母ガートルード(声:斉藤由貴)は、父の弟クローディアス(声:役所広司)と再婚。クローディアスが王位に就き暴君となる。 スカーレットは父の死の黒幕であるクローディアスを殺そうとして失敗し、《死者の国》で目を覚ました。
《死者の国》とは、生と死、過去と未来、時と場所が混在した空間のようだ。様々な時代の人々が、現世の姿のまま、過去のしがらみを引きずりつつ、略奪と暴力に明け暮れている。 《死者の国》での死とは、完全に消え去り〈虚無〉となること。〈虚無〉になりたくないので、誰もが《見果てぬ場所》=天国のような場所へ行くことを望んでいる。 《見果てぬ場所》がどこにあるのか、そこへ行けば生き返るのか、安らかに暮らせるのか、誰も何も知らないが、《見果てぬ場所》は唯一の希望。ここではどんな境遇にある人も、生きたいと願っている。
《死者の国》で敵クローディアスを探すスカーレットは、旅の途中で現代日本の青年看護師・聖ひじり(声:岡田将生)と出会う。 敵討ち以外のことは考えずひたすら剣の腕を磨いてきたスカーレットは、常に戦闘モードで他人を全く信用していない。 一方、聖はナイチンゲールのように、敵味方分け隔てなく傷ついていた傷病人を癒していく。 時代も国も身分も性格も全然違うこの二人に、どんな未来があるのだろう。
スカーレットが幼い頃の幸せな日々、父の死後の冷たい王宮、殺伐とした《死者の国》、迫力の戦闘シーン、旅での出会い、謎のドラゴン、カラフルなダンスシーン等、映像の印象もその都度、大きく変わっていく。 19歳の王女スカーレットの魂の叫びが、ずっと耳に残っている。声で王女を演じている19歳の芦田愛菜は、これからすごい女優になっていくに違いない。 生、死、未来、そして父王の遺言の意味をスカーレットに、そして私たちに問いかけるシリアスなアニメーション。お薦め作品だ。